水道民営化とは?【改正水道法の概要】

水道民営化とは?【改正水道法の概要】

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電気・ガスに続いて2018年12月、水道の民営化に向けて法改正が動き出しました。

テレビやSNSでの情報発信量が少ないため、水道民営化の事実を「だいぶ後になってから知った」という方も多いと思います。

当記事では「どのような背景があって民営化の話が進んだのか」「今後、わたしたちの生活にどのような影響があるのか」水道民営化に関する疑問を解決する情報をご紹介します。

「水道民営化を分かりやすく教えて欲しい!」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

改正水道法によって水道民営化が実現

2019年10月01日に改正水道法が施行されました。
改正水道法の主な目的は、水道サービスの基盤強化です。

当たり前のように水が使える今、水道が使えなくなることへの不安を毎日のように抱いている方は少ないと思います。

しかし、私たちの目に見えない場所では、水道管の老朽化・人口減少による赤字・高齢化に伴う人手不足など、さまざまな問題が日を追うごとに深刻化しています。

一刻も早い解決に向けて、2018年12月06日に水道民営化を後押しする改正水道法が可決・成立しました。

改正水道法を簡単にまとめると、コンセッション方式の導入を積極的に促し「自治体が抱える水道事業への課題を素早く・計画的に改善していこう」といった内容が含まれています。

コンセッション方式の詳しい内容は、後半で再度詳しくご紹介します。

改正水道法の施行までの時系列は以下の通りです。

2018年07月05日:改正水道法が衆議院本会議で可決
2018年12月06日:改正水道法が可決・成立
2018年12月12日:改正水道法の公布(=新しい法律の発表)
2019年09月30日:水道法施行規則の公布
2019年10月01日:改正水道法の一部を施行
2022年09月30日以降:改正水道法の残りを施行(※2020年現在の予定)

引用:水道法の改正について(厚生労働省)

衆議院本会議で水道法の改正案の審議が始まってから可決するまでの時間は、「わずか8時間」でした。

この状況からも、水道事業が抱えている課題が深刻であることが伝わってきます。

改正水道法が施行された経緯とは?

改正水道法が施行された経緯・理由は、大きく3つあります。

  • 水道管の老朽化
  • 人口減少による赤字
  • 耐震化の未発達

冒頭で少しだけ水道管の老朽化に触れましたが、改正水道法の施行背景には他にも、経済的な問題や地震対策の不十分さという問題が絡んでいます。

水道民営化の理由①:水道管の老朽化

改正水道法による水道民営化が実現したきっかけとも言えるのが、約9万戸以上が水道被害を受けた2018年6月18日の大阪北部地震です。

当時、メディアでも大きな話題となった大規模な断水被害の原因は、耐用年数40年に対し10年以上経過していた水道管の破裂でした。

老朽化が明らかになり更新作業の不十分さが問題視されていましたが、耐用年数40年以上の水道管は大阪に限らず、日本全国で10万㎞(地球2周半相当)も存在しています。

同様の被害を避けるためにも迅速な対応が求められますが、新しい水道管への更新費用は1㎞あたり約1億円以上、単純計算でも約10兆円以上の費用が必要です。

運営・修繕コストの主な財源が水道料金である事業側からすると、簡単に賄えるような金額ではありませんでした。

上記に関連して次に問題になってくるのが、日本の人口減少社会における現状です。

水道民営化の理由②:人口減少による赤字

水道事業は、人口=利用者の減少傾向による赤字問題も影響しています。

運営コストの大半が固定費である水道事業では、有収水量(水の需要量)が減少してもコストが下がりません。

実際に3分の1以上の水道事業は、給水原価(水道水を作る費用)が供給単価(水道水の供給で得る費用)を上回る「原価割れ(赤字)」が生じています。

「2050年になればピーク時だった2,000年の有収水量4,100万㎥から約6割以上も落ち込む」といった厚生労働省による試算データを見ても、早急な解決が必要であると分かります。

引用:水道改正法の概要について(厚生労働省)

そんななか、最も単純で効果的な対策として浮かび上がるのが以下の2つです。

  • 水道料金の値上げ
  • 従業員カットによるコスト削減

しかし、上記を実行しても赤字問題や水道管の老朽化問題が「すぐに解決できる」というわけではありません。

むしろ対策を講じることで、以下のようなリスクも新たに発生してきます。

  • 高所得者向けの水道になる
  • 水道サービス・品質が低下する

上記を見てのとおり、自治体(市区町村)による水道事業の限界を打破するためには、民間企業の力が必要なのです。

水道民営化の理由③:耐震化が進んでいない

水道管の老朽化と同じくらい問題視されているのが、耐震化の未着手です。

日本国内の水道普及率が2015年時点で97%を超えるなか、耐震化している水道管は40%を満たしていません。

引用:水道改正法の概要について(厚生労働省)

耐震化が未着手の水道管は、最大震度「6弱~7」の揺れによって水道被害を引き起している事例がいくつも出ています。

厚生労働省では、水道施設・管路耐震性改善運動や水道耐震化推進プロジェクト設立など、周知を目的とした広報活動を行っていますが、耐震化の進捗率はわずか1%にとどまっているのが現状です。

この先、安心して水道を利用していくためにも、民間企業の力を得て対策していく必要がありました。

水道民営化のキーワード「コンセッション方式」とは?

コンセッション方式とは、料金徴収する公共施設の所有権を保持したまま、運営権のみを民間企業に売り渡せる仕組みを言います。

コンセッション方式は2011年のPFI法改正時に誕生しており、水道事業も改正水道法が施行される前から民営化できる状態にありました。

実際に浜松市では、2018年4月(改正水道法施行前)に下水道事業のコンセッション方式を導入しています。

しかし、水道法が改正する前は公の関与が弱く、事業の確実性や安定性に欠けていたようです。

今回の水道法改正ではデメリットとして残っていた公の関与(自治体による運営管理力)を強め、改めて積極的なコンセッション方式の促進を後押ししています。

具体的な公の関与として、政府は以下のような内容を提示しています。

  • 水道サービスの供給責任は自治体が担う
  • PFI法に基づき民間企業が担う管理運営の水準を自治体が事前に定め、厚生労働大臣が可否を決定する
  • PFI法に基づき自治体は民間企業の管理水準をモニタリングし、問題の早期発見・改善を行う。加えて、厚生労働大臣が民間企業に対する報告徴収・立ち入り検査を行う

引用:水道法改正法 よくあるご質問にお答えします(厚生労働省)

改正水道法後は民間企業に対するサポート力が高まりましたが、コンセッション方式を導入するか否かは、自治体に委ねられているのもポイントです。

水道民営化の認知度はどのくらい?

結論から述べると、「水道法改正による水道民営化」を知っている人は、それほど多くはありません。

2019年6月にミツカン水の文化センターが実施した改正水道法に関わる特別調査では、認知度に関する興味深いデータが出ています。

  • 「水道法の改正を聞いたことがあり、内容も把握している」と答えた人:全体の1割程度
  • 「民営化しやすくなったことを知っている」と答えた人:全体の3割程度
  • 「水道法の改正を聞いたことがあり、民営化しやすくなったことも知っている」と答えた人:全体の6割程度

「水道法の改正を聞いたことがある」と答えた人の半数以上は、水道民営化に対しても関心があるということが分かります。

しかし、全体的な認知度としては水道法改正が1割、水道民営化が3割という結果に。

公布後約半年の時点に限ると、全体で7割もの人が「法改正による水道事業体制の変化」を把握しきれていません。

同時期に認知度の有無に関わらず、水道民営化に対する未来への期待・不安を調査すると、8~9割以上もの人が以下の内容に対して「今後、悪くなるであろう」と答えていました。

  • 安定的に水は供給できるか
  • 水道管の老朽化は改善していくか
  • 水の安全性と質の確保ができるか
  • 水道料金はどのように変わるか
  • サービスの地域格差は出てくるのか
  • 災害時の対応はどうなるのか

このような意見が挙げられています。

引用:水にかかわる生活意識調査 2019年(ミツカン水の文化センター)

水道民営化で今後どうなっていくのか?

政府が水道民営化に期待を込めている、今後の見通しを簡単にまとめたのが以下の内容です。

  • 民間企業に運営権を譲り渡すことで、自治体(水道事業)の債務を減らす
  • 債務を減らしたうえで改めて計画的かつ早急な耐震化・老朽化した水道管の更新を行う
  • 自治体に水道サービスの責任を残し、質を維持し安定的な供給を行う
  • 民間企業が持つ独自のノウハウを活かし、事業経営の改善・安定化を図る

さらに政府は、海外の失敗例を基に以下のような対策も出しています。

  • 自治体側である程度の水準を明確化し、水質の維持・管理体制の強化を図る
  • 民間企業が設定できる金額範囲(上限)を取り決め、水道料金高騰化を防ぐ
  • 日常・月次・年次・随時と適宜必要なモニタリングの実施と厚生労働大臣の直接的な介入により、民間事業者の不適切な業務内容を早期発見する

引用:水道改正法の概要について(厚生労働省)

とてもザックリとまとめていますが、「水道民営化によって将来の水道サービスの安定化が図れる」ということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。

前項で取り上げた「水質」「料金」といった不安を100%阻止できるわけではありませんが、自治体が水道サービスの責任を握るコンセッション方式であれば、民間企業と自治体の強みを活かした「良い所取り」の新しい水道サービスに期待が膨らみます。

2020年現在、宮城県では上水・工業用水・下水と計9事業の運営権を民間企業へ譲渡するコンセッション方式の採用を決定し、2021年中の事業開始を目指しています。

水道民営化に反対の声も

水道民営化に対し、多くの方が色々な意見を持っています。
自治体によっては民営化に反対する声も多く、政府の期待通りには進まない状況も伺えます。

特に目立つのが「民間企業にとって水道事業は魅力的か」といった内容です。

その理由として、以下のような声が挙がっています。

  • 「結果(利益)を出せない事業は切り捨てられるのではないか」
  • 「水道料金に上限があると利益追求に偏りやすく、かえって質が低下するのではないか」
  • 「独占事業とも言える水道事業が、競争原理でコストを削減できるのだろうか」
  • 「外資系企業が参入したら、国内の水資源が海外に売り渡されてしまうのではないか」

実際に一部の自治体では、以下のコメントと共にコンセッション方式の導入を見送ると表明しています。

  • 青森市長:「当面、現状の形でより良い水道事業にするよう努力する」
  • 秋田市長:「官民連携の必要性はあるが、根幹に関わる部分は自治体がやる」
  • 神戸市長:「要な部分は民間委託をするが、基本的には現状維持が大切」

水道民営化がもたらすメリット・デメリット

水道民営化に対して、それぞれの人が期待と不安を抱えている様子を伺えます。

水道改正法の施行を経た今、水道民営化が広まるとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

水道民営化のメリット

  • 老朽化の更新・耐震化が進み、断水被害のリスクが減らせる
  • 自治体の高齢化による人手不足が緩和し、管理体系の質低下を防げる
  • 水道料金の高騰化リスクがある程度下がる
  • 自治体が受け継いできた技術・民間企業の独自のノウハウを活用したサービスが始まる
  • 自治体は対価を得て運営悪化の改善に、民間企業は新しい分野への進出・資金調達の円滑化が可能となる
  • 自由度の高い水道サービスにより、利用者側の選択肢が広がる

水道民営化のデメリット

  • 水道事業が経営破綻する恐れがある
  • 運営する民間企業によって料金の差や契約期間の縛りが発生する可能性がある
  • メンテンナンスコストが大きい地方は協力する民間企業が見つからない可能性がある
  • 自治体によって万が一のリスクコントロールに差がある

まとめ:水道が民営化?改正水道法の概要を詳しく解説!

水道民営化の背景には、水道管の老朽化や自治体(水道事業)の経営困窮、高齢化による人手不足と大きく3つの要素が絡んでいることが分かりました。

水道法改正により改めてコンセッション方式の導入が促されていますが、反対意見も多く、自治体によっては消極的な印象も受けます。

電気・ガスと比べると、私たち利用者に対して直接的な影響はまだありませんが、今後どのように水道民営化が浸透していくのか気になるところです。